人は出会いと別れを繰り返すと誰かから聞いた。俺もその通りだ。俺はアリシアと出会いを経験し、そして別れを経験した。俺は何処にいるのか分からなかった。一瞬博士から教えてもらった天国というところかと思ったが違った。話し声が雲って聞こえるところから、俺は何かの中に入れられていることは分かった。だが身体は動かない、俺自身も動きたくはなかった。耳は聞こえているがまぶたすら微動たりともしなかった。俺は話し声に耳を傾けた・・・セス博士の声が聞こえた。
「博士・・・アッシュは・・・アッシュはどうなったんですか!?」
「どうにも言えん、落ちた時に頭を打ち付けたのじゃろう。その衝撃で人工頭脳の一部がフリーズ(機能停止)してしまっておる。いつ再起動するかは分からん」
「そんな・・・どうして・・・自殺できないようにプログラムしていたのに」
「これは推測じゃが・・・おそらく彼の感情がプログラムを上回ってしまったのじゃろう。とても信じられんがアッシュの心はすでに人間そのものと変わりなかったということではないじゃろうか」
「・・・・ジェペット博士・・・話があるんです・・・」
「何じゃ?セス博士」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(何だ?・・・何を言ってるんだ?・・・)
俺が聞き取れたのは「この島を出て・・・・」という部分までだった。その直後に俺は意識を失った。
再び俺が意識を取り戻したのはそれから数時間経過した頃だと思う(時の感覚でなんとなくそう思ったからだ)。俺は耳を澄ませた。セス博士とジェペット博士が何かを話し合っているようだった。
「セス博士・・・本当に出て行ってしまうのか?」
「今回の事件の責任は私にあります。だから私は責任を取ってこの島を出て行くのです」
「そんな・・・君の所為では」
「いえ、アッシュを造ったのは私です。アッシュに責任が取れない以上、この私が責任を取ります」
「セス博士・・・」
「待って!」
俺の耳に聞きなれた声が聞こえた。この声は・・・・俺が一番聞きたかった声・・・死んだと思っていた人の声・・・愛しい・・・アリシアの声だった。
「アッシュに、アッシュに会わせて!」
(そんな・・・アリシア、生きていたのか!?)
俺はこの時初めて動きたいと心の底から思った。だが今の俺は動く事は愚か声すら出せなくなっていたのだ。その悲しい声は俺の心をきつく締め上げた。
「お願いアッシュ・・・起きてよ、ほら、私は生きてるのよ、あなたまで死ぬ事ないじゃない・・・だからお願い・・・起きて・・・」
ポタ、ポタ、と、涙が落ちる音が聞こえた。聞こえた音質で俺は金属製の棺らしき物に入れられている事が分かった。だが俺は何も出来ない寂しさと情けなさで心を痛めた。やがて俺は船に運び込まれた。そして俺は同時に意識を失った。
「アッシュ・・・何年かかっても、私は必ずお前を直して見せるぞ。私はその日まで絶対に死なないからな」
セス博士はアッシュを見つめながら言った。船はオートパイロットで一定の速度で進んでいた。セス博士はソファーに座って本を読んでいたが、やがて眠ってしまった。
・・・・・その直後だった。
ゴガーーーーン!!!
「うわあっ!」
突然巨大な衝撃が船を揺らした。セス博士は飛び起きるとレーダーに目をやった。するとそこにはこの船の3倍近くはありそうな"魚影"が見えた。
「な、何だこのでかい魚は・・・ハッ!まさか"シーデビル"か!?」
シーデビル、その名の示すように海の悪魔と恐れられる巨大な深海魚。それが今まさに巨大な尾を船体に打ち付けた。
ドガーーーーーーーン!!!!
ズガシャーーーーーーン!!!
「ぐわあーーーっ!!」
さっきよりも強い衝撃が船を襲い、船体は真っ二つに割れた。
ザボーン!
「アッシューーーー!!」
アッシュの入った金属のカプセルが船から放り出され海へと落ちた。セス博士は水に浮いていた船の破片に無我夢中で捕まった。
「アッシュ!アッシューーー!」
セス博士の叫びは激しい水音にかき消された。シーデビルは姿を消していた。おそらく船を魚と間違えて襲ったのだろう。そしてアッシュのカプセルも消えていた。
セス博士はその後トロイと呼ばれる島に辿り着き、そこで新しい生活を始めた。だが、無許可でギジンを製造しようとしたことがばれ、そして何度も脱獄行為を繰り返した為に30年間の長きにわたり投獄された。
アッシュの入ったカプセルは海に流され、やがて海に通じる鍾乳洞へと流れ込み、30年後ミント達に発見されるまでそこにいたのだった。