アッシュがドアを開けると、そこにはセス博士がパイプを吹かしていた。
「おおアッシュ、やっと起きたか」
「まあね、ところでジェペット博士は?」
「もうすぐ来る頃だ。今日はお前の点検整備の手伝いをしてくれるらしいぞ」
「そりゃご親切な事だな」
話し合っている二人の横からアリシアが話しかけた。
「ところでセス博士、私はちょっと用事があるので今日は帰りますね」
「ああ、分かったよ」
「またね、アッシュ」
「ああ、じゃあな」
アリシアはアッシュにウインクすると外へ出て行った。アリシアは普段ここで博士の助手として働いているのだ。アッシュの開発を手伝った事もあり、アッシュとアリシアの二人は姉弟のように仲良しだった。
「やあ、セス博士。おじゃまするよ」
しばらくしてジェペット博士がやって来た。まだ杖はついておらず、腰もある程度まっすぐである。
「来てくれましたかジェペット博士」
「もちろんじゃよセス博士、アッシュも元気そうじゃな」
「そりゃどうも」
「博士の造ってくれた人工頭脳は問題なく作動しています。流石はジェペット博士だ」
「いやなに、君の助けがあってこそじゃよ」
そう、アッシュのボディーそのものはセス博士が造った物だが、アッシュの人工頭脳はジェペット博士が作ったのなのだ。セス博士にはもともとアッシュという名の一人息子がいた。だが彼は18歳のとき不慮の事故で突如この世を去ってしまった。それを悲しんだセス博士は知り合いのジェペット博士の手を借り、ギジンのアッシュを作り上げたのだった。
「ところでアッシュ、確か腕の調子が悪かったんじゃろ?」
「ああ、このところどうもギシギシしてね」
「早速診てみよう。セス博士も」
「はい、分かりました」
二人は整備に取りかかった。
「おい、私の娘はいないか!?」
アリシアの父バーロウがセス博士の家に上がり込んできたのは、夕方になった頃だった。彼の額には大量の汗が流れ出ていた。
「ん?バーロウさん、どうかしましたか?」
「それが、娘が見当たらないのだよ。1時間ぐらい前にから姿が見えなくなって探していたのだ」
「そうだったのですか、アッシュすまないが探してきてくれ」
「ああ、分かった」
「娘の行き先に心当たりはないか?」
「分からないが・・・とにかく探してみる。バーロウさんも頼んだぞ」
アッシュはそう言うと森の方向へ走って行った。
「おかしいな・・・確かにここだと思ったんだが・・・」
アッシュはカメイワのある森へと来ていた。だがそこにもアリシアの姿はなかった。
「仕方ない、別の場所を探すか・・・ん?」
アッシュの耳に何かの音が聞こえた。耳を澄ませると、それは草笛の音だった。
「この音色は・・・アリシアの」
アッシュは音のする方向へ向かった。向かった先は海に面した崖だった。その崖の上でアリシアは草笛を吹いていた。
「アッシュ・・・・」
アッシュに気が付いたアリシアは後ろを振り向いた。その目にはうっすらと悲しみが浮かび上がっていた。
「どうしたんだアリシア、突然いなくなるだなんて」
「・・・アッシュ聞いてくれる?」
「何だ?」
「私ね・・・・結婚することになったの・・・」
「え・・・・・」
アッシュは彼女の発した言葉を聞いて絶句した。突如として胸に今までにない奇妙な感覚が湧き出てきたからだ。
「結婚って・・・誰と」
「この島じゃない、別の島の人よ」
「そうなのか・・・でも何でいなくなったり・・・」
「嫌なの、私ここを離れるのが・・・でも・・・」
「でも・・・?」
「私は・・・あなたと離れるのが嫌なの・・・あなたと一緒にいたい・・・」
「え・・・・」
アリシアの口にした言葉・・・それは自分の正直な気持ちを告白したことにほかならなかった。アッシュはアリシアに言った。
「アリシア・・・だが俺は・・・」
「ギジンだからって言いたいの?それが何よ!あなたには心があるのよ!あなたは生きているのよ!それで充分なんじゃないの!?」
アリシアはアッシュに抱きついて泣き出した。大粒の涙が彼女の瞳から流れ落ちた。アッシュは何も言わずにアリシアをそっと抱きしめて言った。
「逃げるか・・・?」
「え・・・?」
「今夜みんなが気が付かないうちに・・・この島を出るか?」
「それ・・・本気?」
「ああ、俺は嘘が嫌いだ・・・」
「うん、それじゃ今夜ね」
アリシアはハンカチで涙を拭った。そして可愛らしく笑った。それを見たアッシュも一緒になって笑った。だがその光景を森の奥から見ている者がいた。憎しみを込めた目で二人を睨みながら・・・